「天皇、皇后両陛下の新年にあたり詠まれた歌」

 この新年(平成二十四年)に宮内庁は昨年、お詠みになった天皇陛下五首、皇后さま三首の歌を発表した。皇后さまが喜寿を迎えられ、お二人で結婚後の過ごされた日々を歌に詠まれた。その皇后さまの御歌の中に、宮古市(岩手県)で両親と妹が津波にさらわれた四歳の少女が、その母親宛てに手紙を書いているうちに、手紙の上で寝入ってしまった写真を新聞で見られて、そのいじらしさに、皇后さまの思いを詠まれた御歌も含まれている。
天皇陛下

「東日本大震災の津波の映像を見て」
黒き水 うねり広がり 進み行く 仙台平野を いたみつつ見る

「東日本大震災の被災者を見舞ひて」
大いなる まがのいたみに 耐へて生くる 人の言葉に 心打たるる
(注)「まが」とは「曲・禍」、「禍事」、「悪いこと、わざわい」のこと。

「東日本大震災後相馬市を訪れて」
津波寄すと 雄々しくも 沖に出でし船 もどりきて もやふ姿うれしき

「共に喜寿を迎へて」
五十余年(いそよとせ) ()を支へ来し 我が(いも)も 七十七(ななとせなな)の (とし)(むか)へたり

「仮設住宅の人々を思ひて」
被災地に 寒き日のまた (めぐ)()ぬ 心にかかる 仮住(かりす)まひの人

皇后さま

「手紙」
「生きてるといいねママお元気ですか」 (ふみ)(うな)(かぶ)(おさ)()(ねむ)

「海」
何事も あらざりしごと 海のあり かの大波は 何にてありし
「この年の春」
草むらに 白き十字の 花咲きて 罪なく人の 死にし春逝く

「平成二十四年 歌会始め」宮内庁 お題は「岸」
天皇陛下
津波(つなみ)()し 時の岸辺は 如何(いか)なりしと 見下(みお)ろす海は 青く静まる
皇后さま
帰り来るを 立ちて待てるに (とき)のなく 岸とふ文字を 歳時記に見ず
皇太子さま
朝まだき 十和田湖岸に おりたてば はるかに黒き 八甲田見ゆ
皇太子妃雅子さま
春あさき 林あゆめば 仁田沼の 岸辺に群れて みづばせう咲く
秋篠宮さま
湧水(ゆうすい)の 戻りし川の 岸辺より 魚影(ぎょえい)を見つつ 人ら(うれ)しむ
秋篠宮妃紀子さま
(かた)き日々の 思ひわかちて 沿岸と 内陸の人ら たづさへ生くる
眞子さま(秋篠宮家の長女)
人々の (おも)(たく)されし 遷宮(せんぐう)の 大木(たいぼく)(きし)に たどり着きけり
常陸宮さま
海草(うみくさ)は 岸によせくる 波にゆらぎ 浮きては沈み 流れ行くなり
常陸宮妃華子さま
被災地の 復興ねがひ 東北の 岸べに花火 はじまらむとす
三笠宮妃百合子さま
今宵揚ぐる 花火の仕度 始まりぬ 九頭竜川の 岸の川原に
彬子さま(寛仁親王家の長女)

大文字(だいもんじ)の (いただき)に立ちて 見る炎 みたま送りの 岸となりしか
高円宮妃久子さま
福寿草(ふくじゅそう) ゆきまだ残る 斐伊川(ひいがわ)の 岸辺に咲けり 陽だまりの中
承子さま(高円宮家の長女)
紅葉(こうよう)の ()しき赤坂の 菖蒲池(しようぶいけ) 岸辺に輝く 翡翠(かわせみ)の青
典子さま(高円宮家の次女)
対岸の 山肌(やまはだ)(おほ)ふ もみぢ葉は 水面(みなも)の色を あかく染めたり
絢子さま(高円宮家の三女)
海原を すすむ和船の 遠き影 岸に座りて しばし眺むる
◇入選者の歌(年齢順)
茨城県 寺門龍一さん(八十一)
いわきより 北へと向かふ 日を待ちて 常磐線は 海岸を行く
埼玉県 佐藤洋子さん(七十七)
対岸の 街の明かりの ほの見えて 隠岐の入り江の 静かなる夜
奈良県 山崎孝次郎さん(七十二)
相馬市の 海岸近くの 避難所に 吾子(あがこ)ゐるを知り 三日眠れず
長野県 小林勝人さん(七十一)
ほのぼのと 河岸段丘に 朝日さし メガソーラーはかがやき始む
大阪府 山地あい子さん(七十)
しほとんぼ 追うて岸辺を かける子ら つういつういと 空はさびしい
千葉県 宮野俊洋さん(六十七)
春浅き 海岸に咲く 菜の花を 介護のバスが 一回りせり
カンボジア・プノンペン 渡辺栄樹さん(六十五)
子らは()み 岸辺に牛が 草を()む こぞの我らが 地雷処理跡
京都府 大石悦子さん(五十七)
とび石の 亀の甲羅を 踏みわたる 対岸にながく (つま)を待たせて
福島県 沢辺裕栄子さん(三十九)
巻き戻す ことのできない 現実が ずつしり重き 海岸通り
大阪府 伊藤可奈さん(十七)
岸辺から 手を振る君に 振りかへす けれど夕日で 君がみえない
◇召人の歌
堤清二さん
雲浮ぶ 波音高き 岸の辺に (すみれ)咲くなり 春を迎へて
◇選者の歌
岡井隆さん
いのちありて ふたたびドナウ 源流の 岸べをゆきし 旅をしぞ思ふ
篠弘さん
かはらざりし 北上川に 花びらが 岸のほとりの 早瀬を走る
三枝昂之さん
なほ朽ちぬ こころざしあり ふるさとの 岸辺に(とも)る 甲州百目
永田和宏さん

(もや)()けて 静かに岸を 離れゆく 舟あり人に 恋ひつつあれば
内藤明さん
源は 雲立てる山 ゆつくりと 流るる川の 岸辺をあゆむ
◇佳作者(年齢順、敬称略)
無職・和田幸一(八十三)=大阪府大東市▽元海上自衛官・井元静夫(八十一)=長崎県佐世保市▽元中学校長・斉藤定(七十九)=山口県萩市▽無職・石田基慶(七十八)=兵庫県たつの市▽無職・福富久枝(七十八)=徳島市▽無職・桐畑福美(七十七)=滋賀県長浜市▽無職・宮宇地孝夫(七十五)=兵庫県芦屋市▽主婦・小林絢子(七十五)=秋田県能代市▽主婦・中根圭美(七十四)=千葉県佐倉市▽元通産省地質調査所主任研究官・吉井守正(七十四)=東京都杉並区▽畳職・宮沢房良(六十八)=新潟県津南町▽会社経営・藤原建一(六十七)=盛岡市▽農業・青野清一(六十三)=茨城県河内町▽主婦・平林宏子(五十八)=神戸市▽主婦・木内照代(五十六)=徳島県阿南市▽図書館司書・榎本麻央(四十三)=茨城県鹿嶋市▽専門学校生・小谷隆(二十八)=兵庫県朝来市▽大学三年・谷川紅緒(二十)=東京都台東区▽中学二年・田中順子(十四)=福岡県久留米市 希望の松)へ 
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