落語「変装夜這い女のリベンジ・・・万葉集」(風流男と変装夜這い女)
 昔やな、石川の郎女とか女郎と言うオナゴはんがおったんやと。オマエが今も世話になっとるおジョロウはんと違うで。「何んでワテが世話になっとんねんな。」何も知らんと思っとるんかいな。京都の島原まで隠れて行ってるのも耳に入っとるねん。「カナンな、めったに行ってないがな。」
 このおジョロウはんはエライ綺麗で無類のオトコ好きやったそうな。「何や、昔の話かいな。」オマエのいつも探しとる向こうの方から来る女や。今でのうても会って見たいと思わんか。「聞かせて、聞かせて。好きなタイプや。」この石川の女郎(ジョロウ)というのは郎女(ロウジョ)と書いたらイラツメと読む。女郎(ジョロウ)と書いても商売しとったわけではあれへんで。
 相手の男はんやけど、オマエと違うてエエ男やった。「ほっといてんか。」こう漢文で書いてある。「大伴(おおとも)田主(のたぬし) 字曰仲郎(あざなをいわくちうろふ) 容姿佳(ようしか)(えん) 風流(ふうりう)秀絶(しうぜつ) (みる)(ひと)(きく)(もの) 靡不歎息也(たんそくせざるはなしなり)」と。「エライ難しい漢字でんな。」読み方はやな。「大伴(おおとも)田主(のたぬし)、あざなを仲郎(ちうろう)と言ふ。容姿は()(えん)、風流は秀絶(しうぜつ)なり。見る人、聞く者、歎息せざるはなし」ちゅうことや。「もうちょっと平たく言うてもらえんやろか。」難儀な人やな、ならこうや。「大伴(おおとも)田主(のたぬし)さんと言う人がいた。これから仲郎(ちうろう)と呼ぶ。この人はとても良い男で、また、たいそう粋な人であったそうで、見る人も聞く人もみんなため息をついたそうです」とこうや。「そや、エエ男やな。今ならキムタクみたいなもんか。昔の長谷川一夫みたいやな、女にやたらモテてた。」そんなところやろな。女のイラツメ(郎女)はんはこう書いてある。「時有(ときあり)石川郎女(いしかわのいらつめ) 自成(もとより)双栖之感(さうせいのおもひをなし) 恒悲(つねにかなしむ)独守之難(どくしゅのまもりがたきを) 意欲(こころにしょ)寄書(をよせむとおもへど) 未逢(りやうしんに)(いまだ)(あへず)」と漢文で。つまり、「時に石川郎女(いしかわのいらつめ)と言ふ人あり。(もとより)双栖(さうせい)(おもひ)をなし、(つね)(ひと)(りみ)の守りの(かた)きを(かな)しぶ。(おもひ)(しょ)に寄せたく(ほっ)するところ、未だ(りやう)(しん)に会えず」と言うこっちゃけど、説明せなアカンやろ。「うん、頼むわ。」こうや。「時に石川郎女(いしかわのいらつめ)と言ふ人あり。(もとより)双栖(さうせい)(おもひ)をなし」これは時に石川の郎女はんと言う人がおったが、ずーとオトコと同棲したいと思うていたと言うことや。「(つね)(ひとり)()の守りの(かた)きを(かな)しぶ。」これはオンナの身は常に独身を守ることが難しいと悲しんでおった。「悲しんでおった」とはつまり、郎女(いらつめ)はんはオトコを知ってしまっていたと言うこっちゃ。ところでこんな話きいたことないか。二十後家は立っても三十後家は立たん。「ソウ言うと聞いたような。」二十才で後家に、つまり、亭主に死なれたとしたら後の一生、オトコなしで済ませることができるが、三十才でそうなったら後家でトオせん。と言うこっちゃ。「そんなオトコが欲しいオナゴはん探しとるねん。」ワテも見つけたいわ。アカン、オマエと一緒にされそうや。それから「(おもひ)(しょ)に寄せたく(ほっ)するところ、未だ(りやう)(しん)に会えず。」とはな、オトコに自分の思いを恋文に書いて送りたいが、人に知れんように上手に恋文を届けてくれる人がまだ見つからん。と言うこっちゃな。この時分は郵便がなかったんや。「そりゃ郵便はないわ。それからどうした。」オモロなってきたんやろ。「それからどうした。」わかった、わかった。「(ここに)作方便(ほうべんをさくす) 而似賤嫗(いやしきおうなににせて) 己提堝子(おのれでなべをさげ) (しこうして)(しん)寝側(そくにいたる)」。さてと、そこで郎女はんは方便を思案した。つまり、「(いやし)(おうな)に似せて、(なべ)(おのれ)()げ、寝側(しんそく)に到る」平たく言えやろ。「そうそう。」わかっとる。そこで策略を練った。(いやし)(おうな)に似せて、(なべ)(おのれ)()げ、寝側(しんそく)に到る。つまり、貧乏くさいオバンに化けて、「ゆきひら」と呼んどった土鍋やな。その鍋をオノレで持って仲郎の寝ているそばまで行った。と言うことや。「哽音(きやうおん)(てき)(そく) (とを)(たたいて)(いわく) 東隣貧女(ひがしどなりのまずしきをんな) (ひを)(とらむ)来牟(としてきたる)」つまり、「哽音(きやうおん)(てき)(そく)し、戸を叩いて曰く、東隣りの貧しき女、火を取らむとして来たる」とは、老婆らしい吃音(きつおん)で、つまり、どもって、よたよたと歩き。これからや。「これはオモロイ。きっとイラツメはんはこのくらいのことを言うたんと違うか。」どう言うたんや。「ヘヘヘ、こうや。」ひっひっひ(・ ・ ・)、東隣りの婆さんじゃが、()()っ火種を貰えんかのぉ。』オマエ、エライうまいな。モノマネができるとは知らなんだ。「このために習うてきたんや。」ウソツケ!オマエもよう言う。まだあるで、「(ここで)是仲郎(ちうらふ) 暗裏非矣識冒隠之形(くらきうらにぼういんのかたちをしらず) 慮外不堪拘接之計(おもひのほかにくせつのたばかりにあへず)」つまり、「ここで仲郎(ちふろふ)、暗き裏に冒隠(ぼういん)(かたち)を知らず。慮外(りょがい)()(せふ)(たばかり)()へず」平たく言うと、「仲郎は真っ暗なので郎女はんが変装してるとはわからず、彼女が同衾(どうきん)しようとする計略には思いが至らず。」とは、仲郎は暗いので年頃の女が婆さんに化けているとは夢にも思わなんだんやな。まして、郎女(いらつめ)が一緒に寝てやろうと思うているとは、まさかや。「そやワテも思わなんだ。」さてと、どこまで行ったんやった。「はよ、次をやってんか。」まあ待てや。喉が渇いた、お茶くらい飲ませてえな。その間は、右の「かしまし娘」でも聞いといてんか。(
・・・休憩・・・)

 さてと、「(おもひ)(にまかせ)(ひを)(とり) (あとに)(つきて)帰去也(かへりさらしむなり)」ふーん。「思ひのままに火を取り、(あと)()きて帰り()らしむ」うん、なるほど。「郎女の変装と演技が出来過ぎであったのか、仲郎は思いが至らないままに、火を与えて来た道を帰してしまった」となっとるな。

明後(あけてのち)女郎(いらつめ) 既恥自媒之可愧(じばいのはずべきをはぢ) 復恨心契之弗果(またしんけいのならざるをうらむ)」なになに。「明けて後に郎女は、(すで)自媒(じばい)()づべきことを恥ぢ、また、(しん)(けい)()らざることを恨む」ふーん。これはナントエエ漢文や。う~ん。なるほど、なるほど、こういうふうに言うか、感心するわ。「そんな感心しとらんと説明してえな。」よっしゃ。郎女はんは朝になって冷静になり、女から申し込んだことを恥と思い。心で期待すること、つまり、仲郎はんが接してくれて、そのまま朝まで可愛がってくれると思っていたんやな。これは郎女はんは惨めやで。仲郎はんはウカツやったな。オマエやったらどうや。「女が夜這いに来とるのを気が付かんのはどうかしとるわ。郎女はんのような女を帰したとはウカツと言うより、ドアホウやわ。春団治もこんなことせえへん。郎女はん怒ったやろ。」そうらしいな。「因作斯歌(よりてこのうたをつく)以贈謔戯焉(りてきゃくきとしておくる)」。この意味は「()りてこの歌を作りて謔戯(きやくき)として贈る」そうそう。「郎女はんは、仲郎に腹を立て、恨みもあって冗談ごととしながら歌を贈った」となっとるな。「どんな歌になってまっか。」まてまて、「石川郎女大伴宿禰田主贈歌一首 遊士(みやび)(をと) (あれ)者聞流乎(はきけるを) ()()不借(かさず) 吾乎還(あれをかへせ)() 於曾(おそ)()風流士(みやびを)」ふーん。石川郎女は大伴宿禰田主に歌を一首贈った。「風流男(みやびを)と (あれ)は聞けるを 宿(やど)()さず (あれ)を帰せり おぞの風流男(みやびを)」なるほど、こう言うこっちゃ。かねて粋な人だと聞いていたのに、泊めてくれず帰してしまうとは聞いてあきれるわ。なんと間抜けな粋な人だこと。「聞いてあきれるわ。なんと間抜けな粋な人だこと」とは、うまいこと言いはりますな。仲郎はんが返事をしとるで。「大伴宿祢田主報贈歌一首 遊士尓(みやびをに) 吾者(あれは)(あり)家里(けり) ()()不借(かさず) 令還吾曾(かへししあれそ) 風流士者(みやびをには)(ある)」なになに。「風流男(みやびを)に 吾はありけり 宿(やど)()さず 帰しし吾ぞ 風流男(みやびを)にはある」とは、「郎女め、何を言うか!やはり私は粋な男だ。泊まらせず帰した私こそ粋な男だ」と言う返事やな。これは(ののし)り合いやで。また郎女はんの歌や。「同石川郎女更贈大伴中郎歌一首 右 依中郎足疾 贈此歌問訊也 吾聞之(あがききし) 耳尓(みみに)(よく)(にば) 葦若末乃(あしのうれの) 足痛(あしひく)吾勢(あがせ) 勤多扶倍思(つとめたぶべし)」ふーん。ここは郎女はんの前置きもすごいで。「郎女はんは何言うてまんねん。」そこや。郎女はんは、仲郎はんに病気(足疾)見舞いで歌を贈り、様子を聞いとるねん。「吾が聞きし 耳によく似ば 葦の(うれ)の 足ひく吾夫(あがせ) 勤めたぶべし」とはな。「私が聞いた噂の通りです。葦の葉先みたいに、ぐにゃぐにゃの足痛の恋人さん、足を治されたらいかがですか。お大事にね」とは、こりゃ、痛切な。仲郎はんは立ち直れんで。「立ち直るも何も、仲郎はんはもともとアレ(足)が立たんかったんやろ。」それダジャレかいな。

郎女はんはわざわざ「ぐにゃぐにゃ足を治されたらいかがですか」と足痛、つまり、足の病気をお見舞いしているのや。ちなみに、男の足は二本だけでないわな。嫌味もエエとこや。そや、すごい美男で、粋人と言われとった仲郎はんは、さどや歯ぎしりしたやろな。いやいや、「何ヌカスこの夜這い女め!」とでも言うたか、どっちやろナ。
 ところで、この落語をタダで聞いとるそこらへんの皆さん、アンタラどう思う?。感想を聞かせてえな。「そ、そこの人、ちょっと!。席を立ったらアカンがな、ここでやなしに、ウチに帰ってからも、立たんと。風流男(みやびを)と変装夜這い女」の一席である。(完)添え書きの作者は誰か?」へ INTRO
 
 
(漫画、イラスト、諷刺画など募集中)
 このストーリーは、かなりの枚数になりそう。郎女が老婆に変装するところ。夜這いをかけるところ。無視されてスゴスゴ変えるところ。家へ帰っても眠れずモンモンとしているところ。ついにキレテ、このKYめと、木簡(短冊)を書き投げつける。仲郎もキレテ、イカズゴケめと投げ返す。郎女は完全にキレテ、このヤクタタズめ!とミンナに言いふらし、セセラ笑う。グーのネもでないマザコンの仲郎は母親にリベンジを頼む。郎女と母親の大ゲンカが始まり、機動隊(軍隊)が出動する。天皇などの宮人はアッケに取られている。ちなみに、仲郎は大伴一族で、オヤジ(旅人)が軍隊の最高責任者です。12コマになりそうです(これは一例です。ほかにアイデアがあればどうぞ)


笑福亭松鶴(六代目

桂春団治(初代)
浪速恋しぐれ

坂田三吉
王将

漫才「かしまし娘


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