「困ったもんだギター(酒に酔っているギター)」
 小川町(東京都小平市)に居た頃のことである。駅の近くに喫茶店があった。コーヒーが美味いので通っていた。ある日、マスターとギターのことに話が及び、ギターの弦と「琴線(きんせん)」の話をした。マスターは「琴線に触れるとは、いいですね。」と言った。ちなみに、ママはオシャレでイイ女だ。
 近くの商店街に閉店する文房具屋さんが有ると聞き、覗いたところ「モンブラン(万年筆)」があったので手に入れた。しかし、どうもインクがうまく出ない。そこで、マスターに見せたところ万年筆にも詳しく、モンブランを見ると店の中を探し、数本のモンブランを持ってきて、私が入手したものと較べて、どこが悪いのか調べてくれた。結局、部品が壊れていたとわかったが、マスター曰く「部品を買うこともできるが、このまま付けペンで使ったほうが良いのではないか。」とのことで、そうしている。店に置いてあったケースをプレゼントして貰った。
 ところで、マスターとギターの話で、私が軽音楽部であったこと、また、「ダンシングオールナイト」で知られる「もんたよしのり」の家庭教師をして、数学、英語、それに、ギターを教えていたことを話した。そこで、ギターを買いたいと相談したところ耳寄りな話を聞いた。(注)「もんたよしのり」の「もんた」とは神戸市東灘区深江にあった「門田ふとん店」の生れだからである。また、家庭教師は同期の田中稔克(軽音楽部、通称トンカツ)の後を継いだ。
 マスターが言うには「近くのリサイクルショップに東海のギターで良いのがある。二本のギターが中古であったよ。まだあると思う。」とのことである。これは買いだと思い、早速、その店に行ってきた。自転車にギターを荷台にしばり付けるためタオルを数枚持ち、ギターは二本とも買うことに決めていた。

 開店の三十分前に着いた。数人の待ち客の中に、ミュージシャンらしいのが高価そうなギターを持っていた。外見からして高そう。聞いたところ「アメリカのOEMで日本のメーカーが作っていて、百三十万円だ。」とのことであった。なるほど、マスターから聞いていた「東海」も一九七〇年代の「C.Fマーチン社」のアコースティックギターや、フェンダー社、ギブソン社のエレキギターも作り、一方でTalboMATSEB構造といった独自技術によるエレキギターも開発している。これだ。
 店が開いた。東海製のギターはジャンク品でホコリをかぶったまま、汚れたままサビたままだ。ご親切にネックにワレありとか、弦コマが錆びているとかのメモがあるが、見る限り問題ない。予定通りギター二本、弦を二セット、ギターケース、それと調弦器を買う。これで東海のギターはこの店にはなくなった。
 持ち帰り手入れをした。洗剤で洗い、サビトリをスプレーし、グリスアップをしたところ素晴らしいギターに変身した。「やった!。」弾き始めたら、おや?指が勝手に動いてる。コードを押さえたら、今まで鳴かなかった弦が歌っている。アラ!不思議。指の先にタコが出来るまで数か月くらいは待たねばならないと思っていたのに、もう、このギターは歌ってる。きっと歌いたかったんだ。

 暫く日を経て、買ったギター二本を持参し店へ行った。ちなみに、この店の名前は「待夢」という。西武鉄道の小川駅から二、三分のところにある。「買ってきたよ。二本とも。」隣りにいる客は、私が勝手に「先輩」と呼んでいる、八十がらみの元、遊び人らしい。彼が言う。「ナニ!買ってきたの。しまった。遅かったか。」と。「早いもの勝ちだよ。ザマア見ろ。ナンなら売ろうか十万円で。」と私が言う。ちなみに、「先輩」は日本橋の生まれで若い頃からナラシテいたらしく、ギター流しのニイチャンにも知り合いが多かったと言う。鶴田浩二などが近くをウロウロしていたと言う。「芸者が勝手に流しを呼んでくるんだ。チップをはずまなきゃしょうがないよ。」おそらく、家の二、三軒は呑んでしまったクチだ。「湯の町エレジー」と「人生劇場」がこの「先輩」には似合いそうだ。
 ひとしきりマスターを交え「先輩」と憎まれ口をたたき合っていた。いつのまにかマスターがこのギターを、衝立(ついたて)の向こうで弾いている。それを聞いていた客がビートルズのナンバーなどを弾いて、「良い音がしますね。このギター。」と言っている。この方はナカナカのギター弾きと思う。
 マスターが言う。「早く弦を新しいのにしなきゃ。」と。アレ、このギターは私が買ったのにも関わらず、弦を取り替えるらしい。マスターも買うのに先を越されて「悔しそう」である。
 早々に「待夢」にギター一本を残し、クラシックギターの方を持ち帰り、新しい弦に替える。ナイロン弦のせいかナカナカ音が落ち着かない。弦を張ったままにして、ひと眠りしてから弾いてやろう。目が覚めたら午前一時だった。音を合わせて弾き始めると「アレ、こいつ一人で勝手に歌ってやがる。それも酔っている。そんな歌を唄えとは弾いてないぞ。」ナンダその歌?。東京午前三時」ではないか。」、「オマエ酔ってるな。よく見ればこのギター、女じゃないか。ナカナカのイイ女だ。しかし、酒癖が悪そう。」おかげで寝させて貰えず、いつの間にか夜が明けてきた。困った女だ、このギター。一緒には住まないから何処かへ行ってくれ。この六畳一間じゃ狭すぎる。御用があるときゃ呼びに行くから暫くトイレで歌ってくれ。(完)
 
トイレの神様」(植村花菜)、「待夢」の「チャコ&チコ」のライブは毎月最終の日曜日にやっていてもう四年になる。

 ダンシングオールナイト」(もんたよしのり
 
落葉しぐれ」(歌、三浦光一)
 
 ところで、大学の軽音楽部のエレキバンド「トランパーズ」
の西脇市民会館(兵庫県)の公演、観客1,500人を思い出す。トンカツのサイドギターが刻むリズムが未だ体に残っているよ。公演前に西脇市の公民館で合宿したこともあった。私は今もギター(クラシックギター)を弾いている。クロードチアリの「夜霧のしのび逢い」などをね。そのうち、テッチャンのペットで「暗い港のブルース」(ベースは伊敷のケンチャンだ)や、トンカツの歌うレイチャールズの「ホワッツアイセイ」を「おやじバンド」でなく「ジジイバンド」で”野郎ぜ!そのときゃドラムはシノハラ(ビートライナーズ)に頼もう。ところで、先輩バンドの「ビートライナーズ」の谷口さんとか森本さんは、どうされているでしょうか。オリジナル曲の「海に行きたい」が懐かしい。
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もんたよしのり

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