『変装夜這い女のリベンジ(作者は誰? & 石川郎女は?)』

 さて、「変装夜這い女のリベンジ」は、男女の三首の歌と添え書きの構成である。万葉集は「歌(短歌・長歌)」と漢文で書かれた「添え書き」の構成であるが、「添え書き」は、歌の作者の名とか状況・背景であり、歌の作者本人、または、編集者に依り記されている。

では、この「添え書き」を書いたのは誰であろうか。

『添え書きの漢文は「山上憶良」の作ではないか?について』
 次は、大伴家の先祖、大伴左提彦と松浦佐用姫の別れ領布振るの別れ」である。添え書きの漢文と短歌一首。
 天平二年(七三○年)七月十二日、山上憶良「謹んで献上する」とある。
天平二年七月十一日筑前国司山上憶良謹上
大伴佐提比古郎子(おおともさでひこのいらつこ)(ひと)り朝命を(かがふ)りて、使(つか)ひを(はん)(こく)(ほう)じ、(ふなよそほ)ひし(さお)して(ここ)()き、(やくやく)蒼波(さうは)(おもぶ)く。(をみなめ)なる(まつ)()佐用嬪面(さよひめ)、この(わか)れの(やす)きを(なげ)き、()()ふことの(かた)きを(なげ)く。(すなわち)、高き山の嶺に登り、遥かに()()く船を望み、(ちやう)(ぜん)として(かん)()ち、黙然(もくぜん)として(たま)()し、遂に()()()きて()るに、(かたは)なる者、(なみた)を流さざるはなかりき。()りて()(やま)(なづ)けて、領布(ひれ)(ふる)(みね)()ふてり。(すなわち)歌を作りて(いわ)く。
大伴佐提比古郎子 特被朝命奉使藩国 艤棹言帰 稍赴蒼波 妾也松浦佐用嬪面 嗟此別易 歎彼会難 即登高山嶺 遥望離去之船 悵然断肝 黙然銷魂 遂脱領布麾之 傍者莫不流涕 因号此山 曰領布麾之嶺也 乃作歌曰(漢文)
 この山上憶良の「添え書き」と次の「変装夜這い女のリベンジ」の「添え書き」の文体は似ていると思う。
大伴(おおとも)田主(のたぬし)(あざな)仲郎(ちうらう)と言う。容姿は佳艶、風流、かつ、秀絶(しうぜつ)である。(みる)人聞者(ひときくもの) (たん)不歎息(そくせざるはなし)時に石川郎女(いしかわのいらつめ)と言ふ人あり。(もとより) 双栖之(そうせいの)(同棲の)(おもひ)(つねに)独身(ひとりみ)(のかたき)(をかな)(しぶ)(りやう)良信(しんをほっする)ところ(恋文を届けてくれる人)に会えず。 そこで方便作(ほうべんをさく)す。つまり、(いやしき)(おうな)(みすぼらしい老女)に似せて、(なべ)土鍋(ゆきひら))を(おのれ)()(仲郎の)寝側(しんそく)(寝ているそば)に到る。
哽音(きやうおんてきそく)し(老婆らしい吃音(きつおん)でよたよたと歩き)、戸を叩いて(いわく)
 ここで仲郎、暗き裏に冒隠(ぼういん)(かたち)を知らず。(真っ暗なので変装してるとはわからず)慮外(りょがい)拘接(くせふ)(たばかり)()へず。(郎女が同衾しようとする計略には思いが至らず)思ひのままに火を取り、(あと)()きて帰り()らしむ。明けて後に郎女は、(すで)自媒(じばい)(自分で申し込むこと)の()づべきことを()ぢ、また、心契(しんけい)(心で期待すること)の()らざることを恨む。朝になり郎女は女から夜這いを仕掛け、失敗したことが惨めで慚愧(ざんき)に堪えず、また、仲郎の期待外れのそっけなさを恨みに思う。()りてこの歌を作りて謔戯(きやくき)(たわむれごと)として贈る。
大伴田主 字曰仲郎 容姿佳艶 風流秀絶 見人聞者 靡不歎息也 時有石川郎女 自成双栖之感 恒悲独守之難 意欲寄書 未逢良信 爰作方便 而似賤嫗 己提堝子 而到寝側 哽音足 叩戸諮曰 東隣貧女 将取火来矣  於是仲郎 暗裏非矣識冒隠之形 慮外不堪拘接之計 任念取火 就跡帰去也 明後女郎 既恥自媒之可愧 復恨心契之弗果 因作斯歌 以贈謔戯焉(漢文)
 「大伴佐提比古郎子、特り朝命を被りて、使ひを藩国に奉じ、云々」この文体と文調は「夜這い女のリベンジ」の「大伴田主、あざなを仲郎と言ふ。容姿は佳艶、風流は秀絶なり。見る人、聞く者、歎息せざるはなし、云々」と似ていると思う。
 「山上憶良」は、大伴旅人と共に大宰府に居たことは明らかであり、大伴田主=仲郎(本人)に、石川郎女との関係を聞いたと思う。添え書きに「以贈謔戯焉(きゃくきとしておくる)(戯れとして贈る)」とある故、山上憶良のジョークかも知れない。大伴田主(仲郎)の二本の足の「足痛」を、二本足以外の「足痛」に話を作り替え、親しくしていた旅人始め、大伴一族をからかったのではないか。(山上憶良略伝)へ

『石川郎女とは?について』
 また、石川郎女とは誰かである。同じ石川郎女とか石川女郎とか呼ばれる女性は万葉集に少なくとも六人は名を残している。旅人のオクサンは石川内命婦と呼ばれ石川さんだ。この人は家持の義理のオカアサンだ。とにかく大伴一族に石川さんとか郎女さんとかたくさん居る。大伴家持は、叔母(坂上郎女)と妻(坂上郎女の娘)を同時に恋人にしてるような歌をたくさん詠んでるし、その坂上郎女はアメリカ映画の「卒業」のミセス・ロビンソンみたいだし、百十三才以上生きた長生きの山上憶良なら、この山ほど居る石川さんとか郎女さんをみんな知ってて、ジョークを言っても叱られることはないし、また、郎女さんの一人は「風と共に去りぬ 」のヒロインのスカーレット・オハラ似ている。レット・バトラーに久しぶりに逢いに行くのに、カーテンで作ったドレスを着て、レットに手の荒れで貧乏を見すかされるシーンがあったが、帰りにスカーレットは確かカンカンにイカッテいた。(風と共に去りぬ、短歌

今のところ、六人の郎女さんのうちの誰であるかはわからない。若しくは、七人目の郎女さんにまだ巡り会ってないのかも知れない。(完)石川郎女考(石川郎女さん六人)」へ
(参考)「変装夜這い女のリベンジ」の他の口語訳を紹介。  TOP


映画「卒業
(写真の女性は本文と無関係です
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