「ゴンドラの唄」作詞:吉井 勇 作曲:中山晋平

 この「ゴンドラの唄」は、映画「生きる」(黒沢明監督)の主題歌である。癌のため余命四ヶ月と宣告を受けた市役所の市民課長(主演、志村喬)が、お役所仕事の中で生きた己を振り返り、過去、事務的に処理したまま放置した陳情書を見直し、自ら率先して下町の低地を埋め立て「小さな児童公園を作り始め、やり遂げてから死ぬ」という映画である。主人公が雪の降る児童公園で一人ブランコに乗りながら、「ゴンドラの唄」を口ずさむシーンが印象に残る。

一、命短し 恋せよ乙女 紅き口唇 褪せぬ間に 熱き血潮の 冷えぬ間に 明日の月日の ないものを

二、命短し 恋せよ乙女 いざ手を取りて かの舟に いざ燃ゆる頬を 君が頬に ここには誰も 来ぬものを

三、命短し 恋せよ乙女 波に漂う 舟のように 君が柔手(やわて)を我が肩に ここには人目の ないものを

四、命短し 恋せよ乙女 黒髪の色 褪せぬ間に 心の炎 消えぬ間に 今日は再び 来ぬものを

 さて、「命短し 恋せよ乙女」と言いたいのは、古人ならば「小野小町」であろう。

小野小町の歌である。

「花の色は 移りにけりな いたづらに 我が身 世に降る 眺めせしまに」(古今集、百人一首)

 花の色は儚く褪せてしまう。(まるで恋を知らない私のようだわ)世の中で何をするのでもなく、ぼんやり眺めている間に(いつか色艶もなくなり)花のように私の身も降っています。「眺め(長雨)ている間に(長雨で花も色褪せ)・・・私も降る(古)くなってしまったわ。」見事な歌である。さすが世界三大美人の一人であり、歌美人でもある。そして、日本美人は無常を知る。

 世界三大美人は「小野小町」、「クレオパトラ」、「楊貴妃」である。(楊貴妃 比翼の鳥と連理の枝)へ

 平安時代の「小野小町」に対し、天平時代は次である。

ぬば(たま)の 黒髪(くろかみ)(かは)り (しら)けても (いた)(こひ)には ()(とき)もあり
野干玉之 黒髪変 白髪手裳 痛恋庭 相時有来(万葉仮名)(巻四 五七三)
 『若かりし頃はカラスの濡れ羽色(ぬればいろ、漆黒)の黒髪だった。しかし、今は黒髪も白くなってしまった。でも、こんなヒドイ恋をしてしまうものだわ。』”辛い恋は、もうイヤ!、でも、恋が出来るくらい、わたしは若いのだわ”

大津皇子の侍女の石川郎女(いしかわのいらつめ)が大伴宿奈麻呂(おおとものすくなまろ)に贈った歌である。彼女の通称は山田郎女で、宿奈麻呂は安麻呂(大納言兼大将軍)の第三子である。
大津皇子宮侍石川郎女贈大伴宿祢宿奈麻呂歌一首 郎女字曰山田郎女也宿奈麻呂宿祢者大納言兼大将軍郷之第三子也(漢文)

()りにし (おみな)にしてや かくばかり (こひ)(しづ)まむ ()(わらは)のごと
 または、恋をだに 忍びかねてむ ()(わらは)のごと
古之 嫗尓為而也 如此許 恋尓将沈 如手童児 一云 恋乎大尓忍 金手武多和良波乃如(万葉仮名)(巻二 一二九)
 『年を取ったおばさんなのに、これほどまでも恋に沈むこともあるのよ。まるで幼子のようだわ。」または、『恋くらいがまん出来ないのか、まるで幼子のようだわ。』
 この石川郎女(山田郎女)は、まことに恋に長けた老練な歌を作るものと感心する。彼女は宿奈麻呂より年上である。しかし、この歌で「幼子」のような年下の女になってしまう。歌を贈られた宿奈麻呂は石川郎女を可愛いい女と思うであろう。森進一の代表歌の「年上の人」そのものである。年上の人」「♪だからわかってほしいのと・・」

 また、次の歌の作者の「大伴坂上郎女」は当時、三十四、五歳である。男運が悪く、穂積皇子に愛されたが大伴宿奈麻呂とも死に別れ、藤原麻呂との結婚も失敗に終わったようである。三十四、五歳は現代では六十歳半ばであろう。

大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)の歌

黒髪(くろかみ)に 白髪(しろかみ)(まじ)り ()ゆるまでに かかる(こひ)には (いま)()はなくに
黒髪二 白髪交 至耆 如是有恋庭 未相尓(万葉仮名)(巻四 五六三 大伴坂上郎女)
 『黒髪に白髪が混じり老いるまでに、こんなヒドイ恋に悩まされるとは思っても見なかったわ。』”このわたしが、まるで娘みたいに恋をしてるわ。

 つまり、「百人一首」の「小野小町」と違い、「万葉集」の女流歌人は年老いても「女」であった。そのような女性を万葉の男どもが揶揄した歌は見当たらない。「アラウンドフォーティー」「アラウンドフィフティー」などと言う感覚は、天平時代の女性にも男性にもなかったのである。あと、数年後に「オーヴァーハンドレッド」の恋がゴロゴロしてるかも知れない。(今、iPS革命が近付いている)

 この「大伴坂上郎女」を作歌の師としたのが「大伴家持」である。

一重(ひとへ)のみ (いも)(むす)びし (おび)をすら 三重(みえ)()ふべく ()()はなりぬ
一重耳 妹之将結 帯乎尚 三重可結 吾身者成(万葉仮名)(巻四 七四二)
大伴宿祢家持贈坂上大嬢郎女歌十五首(漢文、添書き)
 「一重に貴女が結んでくれた帯も、三重に結ばなければならない程に私の体はなってしまいました。」一重に結んでいた帯を、今は三重に巻いています。それほど貴女を思い痩せてしまいました。「大伴家持」は歌の師の「大伴坂上郎女(家持の叔母で、かつ、義母)」を越えたかも知れない。これを「青は藍より出でて藍よりも青し」出藍の誉れ)と言う。(完)

There is no life without music,love and wine.(歌と恋とワインなくして何の人生があろうか)

「ゴンドラの唄」(歌、小林旭

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「小野小町」と「大伴坂上郎女」など
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