「遊行婦女土師(うかれめはにし)」(垂姫の舟遊び)
 さて、天平勝宝三年(七五一年)、正月三日の縄麻呂の館における新年宴会の文末からである。(文末は一部重複している)
 縄麻呂の歌に和して大伴家持の一首である。

守大伴宿祢家持和歌一首(漢文)
()(とり)は いやしき()けど ()(ゆき)の 千重(ちへ)()めこそ ()()()ちかてね
鳴鶏者 弥及鳴杼 落雪之 千重尓積許曾 吾等立可氐祢(万葉仮名、巻十九 四二三四 家持作)
 『鶏(とり)はしきりに鳴いているが、降る雪が千重(ちえ)に積もっているので、帰るにも帰れないではないか。』
 大伴家持の「帰るにも帰れないではないか」を聞き、越中(富山県)の住人なら越中弁で次である。

 ん?・・・帰れん?・・な~ん、そんながでちゃないがでないがけ?家持は、この越中弁の真の意味を理解できなかったであろう。この場合の「な~ん」は、「なん!」と短く発音すれば単なる否定であるが、やや長く発音していて、”本心ではなく、ウソでしょう?”の意があり、今も県外からの来訪者には聞き分けるのは不可能である。
 その意味は「いゝえ、(あなたの)本心は、帰るにも帰れないではなく、まだ帰りたくない、ということでしょう?」と、家持の本心を推測しながらも、半ば断定しているのである。このな~んそんながでちゃないがでないがけ?の二つは、難解な越中弁の中でも特に難解である。

ここで「遊行婦女土師(うかれめはにし)」である。天平二十年(七四八年)三月二十五日、布施の海で家持と遊行婦女土師が舟遊びをする。

大伴家持の歌
(たる)(ひめ)の (うら)()(ふね) 梶間(かぢま)にも 奈良(なら)我家(わぎへ)を (わす)れて(おも)へや
多流比売能 宇良乎許具不祢 可治末尓母 奈良野和芸弊乎 和須礼氐於毛倍也(万葉仮名、巻十八 四〇四八)
 『たるひめの浦を漕ぎながら、梶を取っていても、奈良の家を忘れられようか。いや忘れられない。』

 遊行婦女土師の歌
(たる)(ひめ)の (うら)()(ふね) 今日(けふ)()は (たぬ)しく(あそ)べ ()()ぎにせむ
多流比売野 宇良乎許芸都追 介敷乃日波 多努之久安曾敝 移比都支尓勢牟(万葉仮名、巻十八 四〇四七 遊行婦女土師)
 『たるひめの浦を漕ぎながら今日は楽しく遊びましょうね。貴方との今日の出逢いを、いついつまでも皆で語りぐさに致しますわ。』(家持さん、大好きよ!

 家持と遊行婦女土師が和(わ)した歌である。この時、家持は単身赴任二年目で、家持が「奈良の我家」を懐かしんでいるのに対し、遊行婦女土師は「今日は楽しく遊べ」と慰めている。また、「言ひ継ぎにせむ」は、今日のこの事を「人にも話そう。いついつまでも語り継いで行きますわ。」である。遊行婦女土師は真に歌に長(た)けている。

 さて、この「舟遊び」の三年後、天平勝宝三年(七五○年)四月一日、国府役人の「広縄館の宴」で家持と遊行婦女土師が霍公鳥(ホトトギス)を、お題にして歌を詠み、再度、歌を和(わ)している。
(参考)
大伴家持=旅人の長男。天平十年(七三八年)内舎人、同十七年従五位下。同十八年(七四六年)越中守として赴任し、天平勝宝三年(七五一年)少納言となり帰京。天平宝字二年(七五八年)因幡守となる。その後、都で役職を歴任し、筑紫(福岡県)へ赴任。しかし、藤原仲麻呂にうとまれ一時左遷されたが復帰し、その後、薩摩(鹿児島県)へ赴任。そして、陸奥按察使兼鎮守府将軍となったが、延歴四年(七八五年)、赴任地の多賀城(宮城県多賀城市)で薨じた。六十八歳。
養老二年  七一八 大伴家持生まれたか。
天平一〇年 七三八 七夕歌を作る。
天平一一年 七三九 亡き妾を傷んで晩歌を詠み、弟の大伴書持が和する歌を作る。
天平一三年 七四一 四月、霍公鳥の歌を作る。
天平一八年 七四六 六月、越中守に任じられ閏七月赴任。
同         九月、弟書持の喪を聞く。
天平二〇年 七四八 三月頃、出挙のため、越中国諸国を巡行する。
天平感宝元年七四九 五月、史生(ししやう)尾張少咋(をはりのをくひ)の歌を作る。
天平勝宝元年七四九 十一月頃、大伴坂上大嬢(妻)越中国へ下向する。

天平勝宝三年七五一 越中を離れ帰京する。
同   七年七五五 兵部少輔として筑紫に派遣される防人の歌を集める。
天平宝字二年七五八 六月、因幡守となる。(その後、帰京後、薩摩へ赴任)
延歴四年  七八五 中納言従三位をもって多賀城(宮城県多賀城市)で薨じた。六十八歳。
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遊行婦女土師のイメージ女優
叶和貴子さん

垂姫の舟遊び」の想像画
(左から、船頭、乙美、広縄、福麻呂、家持、土師、船頭)
(学芸員鈴木氏画)

氷見に二つの潟があった
(氷見市史より)


垂姫の舟遊びの碑のある小境海岸」
国学院大学 万葉神事辞典 垂姫

近い宿(氷見温泉郷 魚巡りの宿 永芳閣
民宿みちしお
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